晴耕雨読

晴耕雨読

忘れてしまうから残す

0408

2020年4月8日水曜日。バイト終わりに先輩が書いた好きな絵を見にほんの少しだけ、の気持ちで寄り道をした。流れる川のその上に掛けられた橋、の壁に書かれたそれは、いつ見ても変わらない、白と黒で描かれたシンプルなデザインで、いつもそこにいる。暗闇に包まれて人の気配のないこんな夜でも、明るく眩しい日差しが照るあんな昼でも、そこにあるから安心する。今日もいい絵だなと、ほうっとする。スイカみたいな月を見た日、満月になるのはいつだろうと調べたらたしか今日だったから、空を見た。ビルとビルの間にたしかにそれは綺麗にぽんっ、とたったひとつだけ浮かんでいて、紛れもない満月だった。じっとしていると風は冷たい。月を見て、また絵を見て、また月を見たりを繰り返す。誰でも見ることができる、誰でも、いつでも目にすることができる、そんな場所に自分の作品がかざられている。それっていったいどんな気持ちなんだろう。「自信、ないよね」ついこの間言われた、そんな言葉をふと思い出したりして、あーそういうことなのかもしれないな、なんて思った。自信は、わたしにはたしかにない。



緊急事態宣言が発表された。バイト先はその影響で営業時間が3時間も短くなった。不要不急の外出はしないでね、なるべく家にいてね、そしたらこの緊急事態も収まるから、とりあえずお願いね、あ、収入が減った人にはちゃんと手当てもするからね。この国のいちばん偉い人はそう言っていた。ロックダウンではありません。聞き慣れないカタカナ語もまた使っていた。不安で不安で仕方がなくて、とりあえず食料を、あ、生活用品も、なんて買い占めをし始めていた人たちの不安はあれで取り除くことができたんだろうか。マスクは相変わらずどこにも売っていない。『品薄となっております』『おひとり様1点まで』の張り紙もなんだかもうあまり見たくないので正直ドラッグストアにもコンビニのそういうコーナーにも行きたくはない。でもだからと言って見つけた店員さんに「マスクってありますか」なんて言うのも聞きたくなんてない。もし自分が見つけられなかっただけでどこかにあったのだとしても、それはそれで誰かがありがたく買っていてくれてるならそれでもいい。


人は、やっぱり一人だとすごく弱くて脆い。あと1ヶ月でこの状態がおさまるなんてこともわたしはとうてい信じちゃいない。だから、あちこちから漏れ出てくる明るく力強い光を浴びてできるかぎりのパワーを借りつつやっていく、それでしか元気で生きていくすべはないんじゃないかと思う。どうか誰も、もう誰のしあわせも未来も奪わないでいてくれれば、いいのに。明日は我が身かもしれない、そんな考えを頭の片隅に置きながら今日も眠りにつけば、目が覚めた時には明るい日差しが部屋に入り込んでいて、またほっとするんだろう。




生きていこうね、それぞれに。

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