晴耕雨読

晴耕雨読

忘れてしまうから残す

1109

1109といつものように日付を書いて、あ、そんなら明後日は1111やからポッキーの日やん、ポッキーの日と言えば高校の頃にお菓子パーティしたことあったなあ、たのしかった。なんて思い出す。机をぎゅっと3つくらい並べてたくさんあるポッキーを食べながらなんてことのないことを話す、あの昼休みという時間。かけがえのないものだったんだな、またやってきたりしないかな、なんて思いながら、なんだかんだ高校生の自分が今まででいちばん楽しい人生を送ってたんだ、と自分がどこかそう感じているであろうことを何となく知る。



大学を辞めてからなんの用事もなくふらりと京都に行くことがぱたっと無くなった。でも京都という街自体のことはすごく好きで、記憶を遡っても春夏秋冬、どの季節の綺麗な景色もたくさんたくさん思い浮かべることができる。入学早々の春には花見をした。雪が沢山降ると思っていた冬も経験した、寒かったけどあまり降らなかった覚えがある。夏はかなり暑く、毎日川沿いは太陽の陽でギラギラだった。秋はあまり覚えていない、でもたぶんいい季節だった。どれも、もう会うことはないであろう大好きな友人たちと過ごしたいい思い出ばかり。『終わりよければ全てよし』の真逆だなと思う。大学を辞め、惜しいかなアルバイトもやっぱり辞めざるを得なくて崩れるように辞め、イベント運営委員も中途半端で辞めて、京都はそうして、あっという間に行きづらい街になって。終わりがよくなかったら、全てが台無しになる。その頃の記憶や経験からだろうか、今でもすこし、『終わり』というものを迎えるのが少し怖くなっているように思う。



久しぶりに三条に降り立って橋を渡っている時、ああやっぱり好きだなという素直な感情と、ぞわぞわしている、やはりあまりここにはいたくないのであろうこれまた素直な自分とが混ざりあって気分は良いものではなかった。暗闇に包まれる鴨川と、そこにバラバラと立ったり座ったりしている人達と、その両側にあるほんのりとした明かり。なんか、あんまり綺麗じゃないな。川も暗いし。別に撮るほどじゃないや。そう思いながら歩いていると、長身の若い男の子がスマホを横向きにして、わたしが今まさに見ていた風景をカメラに収めているのが見えた。綺麗に撮れたのか心配になった。彼にとっての京都の思い出のひとつがこの川の写真になるのか、と思うと、思わず眉間にシワを寄せてしまうような、やるせない気持ちになった。


駅に着いた時点で開場まで時間が30分しかなかったので、とりあえずどこにも寄り道せずに今日の目的地である京都UrBANGUILDへ向かった。Webページの場所説明いわく、「エレベーター手前にITOENの自動販売機があります。3階までどうぞ」とのことだったので少し笑いながら歩いていたら、本当にITOENの自動販売機がちゃんとあって思わず吹き出しそうになった。エレベーターもあったが奥に階段があったのでそっちを使う。するともう既になにやらギターの音が聞こえてきていて、それは、今日の今日までずっと楽しみにしていたバンド、左右がリハをやっている音らしかった。中を覗くともちろんお客さんは誰もいなかったし、受付のお姉さんだと思われる人に「開場は18時なんで」と冷たくあしらわれてあっという間にまた、居心地の悪い夜の京都へほっぽり出されてしまう。白のロンTだけを着て黒いリュックを背負うわたしには、なにやら打ち上げをしている団体が多いのかザワザワと若い男女やスーツを着たサラリーマンたちで溢れるその場所は、ひどい孤独と、そして確かな寒さを感じさせるものでしかなかった。仕方が無いので近くにある本屋ホホホ座へ向かったのだけれど、そこはなんだか本屋、というよりバーのような雰囲気で、ああ、夜の京都はだめなんだなと、そう感じた。気になる本にも出会えることのないまま、無言で扉を開けてまた閉めた。スマホで時間を確認すると18時を過ぎていたので、ゆっくりとした足取りで会場に向かう。座って見る形式のライブらしかった。左右でギターボーカルをやってらっしゃる桑原さんが「左右は物販してますよー」と言いながら物販をしていたので、悩んだがやはり黄色いカバーがかっこいい新しいアルバムを買った。貰ったステッカーとそれを手にバーのお姉さんへハイボールを頼みに行き、前から二番目の椅子に座る。ハイボールはもちろん美味かった。ステッカーもかわいい。


かなりキレッキレで荒々しくも優しい演奏をする左右、メガネでマッシュのお兄さんが渋く歌っているのとMCの声が小さいのとでギャップがいいなと思った本日休演、この2組を見たところで気分が悪くなって会場を出て、帰宅した。最後のバンド、壊れかけのテープレコーダーズはちょっと気になっていたから聴きたかったのだけれど、まあそういうこともあるか、と思いながら後ろの窓に頭を委ね、電車に揺られる。「隣いいですか?」と声をかけてきて座ったショートカットのお姉さんが綺麗で可愛らしい人で、左右が好きだということから話が弾んだことを思い出して余韻に浸った。「なにかおすすめのバンドってありますか」とやけに落ち着いた声色で聞かれたので、正直そういう、他人に自分の語彙力を使ってなにかを勧めるのは苦手だったが、悩みに悩んでやはりAge Factoryを勧めた。スマホに貼ったステッカーを見せて「こう書いてエイジファクトリーって言って……」なんて知識をフル動員させる。「なんか、不思議というか、怖そうですね」今の一つ前か、坊主にされる手前のエイスケさんとエイスケさんを坊主にしようとしている2人、の構図のアー写を見てお姉さんは言った。おそらく分かりづらかったであろうわたしのエイジおすすめポイントを聞いてくれたお姉さんは家に帰ったら聞いてみます、と言ってくれたけれど、実際どうだったんだろうな、とすこし気になる。肝心のわたしはお姉さんが教えてくれた「左右も仲のいいバンドで」のそのバンド名が思い出せずにいる。カタカナの、長い名前だった。どうにかしてSNSを辿って調べてちゃんと聴きたいのだけれど、このポンコツな記憶力はいますぐにでもどうにかしてやりたい。久しぶりの頭痛で、その夜は薬を飲んですぐに眠った。