晴耕雨読

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忘れてしまうから残す

0113 お前らは社員の気持ちが分かってへんねん

人よりもいろんなことを経験してきた自負が、ずっと心のどこかにあった。やりたいことやろうとしててすごいね、行動力があってすごいよ、なんで大学辞めたの?大学辞めるって相当じゃない?そんなことをほんとうにたくさんの人たちに言われ続けてきて、いつしか自分でもそう思ってしまっていた。ああわたしはやっぱり人よりも大変な道にいるんだ、みんなが言うように苦しくてしんどいルートを選んでしまっているんだ。大学に進んで卒業して、就職して企業の会社員になっている同期よりも、自分の方が、大学をやめてフラフラし続けてバイトを始めたり辞めたりしている自分の方が、酸いも甘いも苦しいも辛いも経験して、実は賢いんじゃないかと、そうなんとなく、思ってしまっていた。






でも、実際問題まったくそんなことはない。わたしは賢くとも凄くも同期より苦しい人生を歩んでいることもまったくない。あのたこ焼き屋でいつか言われた言葉がずっとひっかかっていたのは、やっぱりそういうことだったのかとハッとする、ようやく。



「お前らはなあ、社員の気持ちが分かってへんねん」



初めてそう言われた時は全く意味が分からなくて首を傾げるだけだった。ハア?社員の気持ち?そんなの分かるわけがない、だってただのアルバイトで、給料も低いし交通費は出ないし何もかも待遇が違うじゃないか。なんかそんなことを言ったような気がするがさすがに覚えちゃいない。でも、もうわかる。今ようやくやっと、理解だけだができる気がする。会社員に、ひとつの会社をともに担う社員という立場にも、いやその社員としての自覚を持ったことすら無いわたしにはそんなものは分かりっこ無いということが、今ならわかる。甘いのだ、結局。わたしは、小さな世界しかまだ知らないから。


井の中の蛙大海を知らず、されど。最近よく聞くことわざだ。今のわたしではまだその『されど』の先には、『されど、空の青さを知る』ことなんかできやしない気がする。大海を知らなくては。いや、空の青さを知ることができるならそのほうがいい?わからない。やらなくちゃ、わからない。憶測をめぐらしてるだけでは何も変わらない。そう理解しているだけでも、もちろん何も変わることはない。




ここからはただの日記。

大阪にもふたたび緊急事態宣言が発令された。2月7日までまた自粛を要請されるとのことだ。期間はおおよそ20日間。イベントなんかはまたバタバタと中止になったり延期になったり営業時間がさらに短縮されたり、たぶん職場もまたなにか影響を受けてしまうんだろう。

はやく、一刻もはやくこんなの、収まってしまえばいい。はやく何もかも心配することなんかなくなって、元の生活に、ではなく新しく、今の時代にしっかりと合った新しさを取り入れた便利で快適でもう誰もなににも怯えなくていい生活が、はやくできるようになってくれたらそれでいい。それにもう、何が正しいのかが分からない世の中になってきている気がする。ぜんぶ嘘のようにも聞こえてしまうし、ぜんぶ正当なことを言っているようにも思えてならない。誰かの言葉に共感しても「ソウジャナイ!」と訴える人がどこからともなく現れてそれもたくさん拡散されて、いいねがついて。何も考えていない人は知らない間に振り落とされてしまっているんじゃないか、それはもしかして自分なのではと、そう思ってしまって、少しだけ怖い。

誰に、傷つけられてるんだろうなあ。今まで自分たちなりに生きてきたこの世界にいる人たち全員平等に脅威が襲いかかってるだろうに、なんで傷ついている人と傷ついていない人がいるんだろうな。いや、こんなことを言ってもこれが正答なのかもよく分からない。とにかくもう、収まればいい。元の生活は望まなくても、好きな店にまた行くことができたりすれば、たぶん、それでいい。あのオムライス屋は大丈夫だろうか。あの宿は、あのパン屋は、あの服屋は、無事でいてくれるんだろうか。どうか無事でと、なにかできることはないかと彼ら彼女らのことを検索するしかできないのが、ひどくもどかしくてたまらない。