晴耕雨読

晴耕雨読

忘れてしまうから残す

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麒麟閣に連れて行ってもらい、天津飯と餃子をにこにこと口に運んでいると話の流れで「どこで道を踏み間違えたんかねえ」と言われてふつうにギクリとした。ばあちゃんは時々(いや、かなりの頻度で)傷を治してやろう!と頑張ってくれているかさぶたをまるで無理やりにでも引っペがしてやろうとする、そんな言葉を躊躇なく吐いてくる。おそらく色んな物事において根本的な価値観が違うのだと思うし、身内だからそういうことも簡単に言ってくるんだろうし心配してくれているのがありありと分かってしまうからなんともいえない。だから『ああ、身内だからそういうことも言ってきちゃうんだよね、わかってるわかってる』と内心思い頷きながら聞き流している。「どこやろなあ」「あれかいな、高校のソフト部か?」「いやーんーどうかなあ」 聞き流す、今日も今日とて、ただ右から左に。もちろん身内だからとはいえ言っていいこと悪いことはある。こと、というよりも身内だからといってそれを言われたって気にしない人とそれだけは言われたくない人、がもしかすると自分の中ではいるのかもしれないとふと思う。その言葉はきっと、わたしはばあちゃんにしか言われたくない。母に言われても父に言われたって兄に言われたとしても怒鳴り返してしまうだろう。他人に言われたとしたらそれはもう胸ぐらをつかんで二度と自分の前に現れてくれるな、と声を荒らげてしまうと思う。本当に言われたくないのなら、怒ればいい。怒って声をちゃんと上げてもう二度と言われないようにすればいい。ギクリとしただけでわたしがそうしないのは、ばあちゃんだから、なだけ。「それが分かれば苦労はないわ」そう付け足そうとしたけどその時はなんとなくやめておいた。でもばあちゃん、道なんてものがほんとにあったのかわたしにはわからないよ。もうすぐ夕飯の時間。付けていた指輪を外して少しだけ目を瞑った。