晴耕雨読

晴耕雨読

忘れてしまうから残す

1012 夕刻、喫茶店にて書く

2019年10月12日土曜日。久しぶりに熱い熱い、誰かが丁寧に入れてくれた珈琲が飲みたくて梅田駅から10分ほど歩いた喫茶店に来た。初め、別の方向ばかりを向いていて「あー休みなのかー」と冷え冷えしく締め切られたドアを見つめてぼんやりしていたら全くの逆側にその店があって、休みだと思っていたから一気に嬉しくなってしまい19時までの営業ですよだかなんだか書かれた貼り紙にいちおう一瞥してからなんの躊躇もなく引き戸を開けた。ガラガラと音がする。左に人が見えた。本を読んでいるのがすぐに分かった。なるべく静かに閉めようとするもいかんせん不器用なものでなかなかに荒々しい音を響かせてしまったように思った。誰に謝っているのか分からないほどの無意味な小声ですいませんとひと謝りし、「お好きな席へどうぞ」と少しハスキーな声に招かれて奥へと進む。右には本棚。ああ、いい。すごくいい店を見つけた。深煎りの珈琲を頼んだ。たしか中煎りよりも深煎りの方が苦さが増すんだった、と記憶がある。京都の大学に通っていた時にふらりと訪れた隠れ家的カフェで教えてもらった。そこの珈琲は独特だった。また行きたいなと思いつつ行けていない。名前もおぼろげだ。思い出したいようで、別に思い出さなくてもそのぼやぼやとした記憶のまま置いておくのもそれはそれで気持ちいいか、と思っていたりもしている。頼んだ珈琲が来てから本棚を見ようと思い壁に頭を寄りかからせて目を瞑った。眠たい。目の前にある古そうな引き戸が風でガタガタと音を立てている。珈琲を飲みながら眠りそうになって危うくこぼしかける所だった。美味しい。流れてる音楽が心地いい。でももう少し音量が小さくてもいい気がした。



私はどうやら負けず嫌いではない、らしい。無論、前々からなんとなくそんな感じはしていたが、スポーツでも学問でもなんでも、他人より劣っていることに憤りを感じそれを自らの原動力にしようと思ったことは確かにほとんどなかった。『負ける』ことはもちろん悔しいものではある。試合に負けたり、ジャンケンに負けるのもまあまあ悔しい。もうすっかり背丈もぐんと伸びていつのまにか頭1つ分も2つ分ですらも抜かされてしまっている弟と100メートル走を本気で行い、それでいて負けたとしたとしてももうそれはそれはめちゃくちゃに悔しがるだろうなあと思う。弟になんか負けてたまるかという姉としての意地がある。まあ負けるんだろうけど。


ただ、そうだな、なんといえばいいのか、そもそもなにを自分は書こうとしているのか。最近素敵な文章を書く人のブログをたくさん拝見して思うことがある、とでも書けばいいだろうか。それは、「ああ、自分よりいい言葉の使い方だなあ」とか、「何度も読みたくなる文章だ…」だとか、そういう類いのものなので彼ら彼女らに対するいわゆる劣等感、というようなものなのかもしれないが、じゃあ自分は負けず嫌いなのか、と言われると、それはちょっと、なにかが違う気がしていて。それを、その負のエネルギーを私は原動力にどうしてもできないのだ。じゃあわたしももっと上手くなってやろう、だとか、わたしだってもっといい文章が書けるぞ!と意気込むだとか、そういうことが全くない。ああ、決して嫌な気持ちでこの文章を書いている訳ではないので安心してほしい。ただ、最近になって少しずつであるがいい文章を書く人のブログを見つけ出してにやにやといつも読んでいます、ということを、ああ、たぶん、私は『私、負けず嫌いじゃないんですよね』という語り入りによって伝えたかったんだと思う。たぶん。おそらく。もうだいぶ前に珈琲カップは空になっている。



このブログを始めた当初は、否、まったく今も変わらずではあるが、ただただ自分が、自分の言葉だけで残した日記、あるいはメモのようなものを書き残しておくことができればそれでよかった。だからあまり他人の文章を読もうとはしていなかったし読者登録なるものもせっせと利用することはなかった。周りにそういうのを得意としている人がいなかったのもあるし、割とエッセイ本を読み出したのも最近だというのもあると思う。でも読んでみると面白いもので、むしろそれってとてつもなくどうも不可思議なものなんじゃないかとすら思っている。それを読んでいる間だけ感じる、見ず知らずの誰かのふとした日常を、彼ら彼女らから見せてもらっている、というのがそもそも正解だろうにそう言いきってしまうよりは申し訳ない程度にそれらを覗き見てしまっているような、でも気持ち悪さのない、一種の気恥しさ。そわそわ。どきどき。今これを書いていて自分でフッと笑ってしまった。なんだこれは。書き方が変態めいている、と。




私がこうして書いている文章もどこぞの誰かにいつのまにやら読まれているとしたなら、いったいどう思われているのか。今日はわりと取り留めがない。久しぶりに喫茶店に来てのんびり書いているからか、もしくは。



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