晴耕雨読

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忘れてしまうから残す

ばあちゃんに電話してみた話

夕日は人を惑わせるものだと思う。赤とも黄色とも橙ともいえない、あのなんともあたたかい色合いのそれは、今日、自分を素直にさせてくれた。ばあちゃんに電話をしてみた。


「もしもし」
「どうしたん」


ばあちゃんはいつも定番の挨拶である「もしもし」を言わない。孫からかかってきたということを確認して、いつもそう切り出してくるのだ。いや、別になんもないんやけど、と切り返しながら、「元気かなあと思って」という、ただそれだけの言葉を言えずに、盆踊りをこっちで今やっているということを話す。急に恥ずかしくなった。元気かどうかを聞くことが。


「こんな時期に盆踊りかいな」
「いやばあちゃんとよく行ってたやん。懐かしいなあ思って」


それからようやく元気かどうかを聞き出し、するとばあちゃんは先月末に火傷をしたことを話し始めた。


「餅を作った時に足にすっごい大きな火傷してなあ、歩かれへんかったんやでしばらく」


じいちゃんに毎日病院に送ってもらっていたことや、膝をついてトイレまで行っていたこと、すごく痛くて夜も眠れなかったこと。


なんでそんな時にそばにいてやれなかったのか。そんなことも考えたがなにより電話をして、その事実を聞けたことに安堵していた。火傷だけでよかった、とも思っていた。


「でも元気そうでよかった」
「そっちはどうなんや」
「まあまあ、ゆっくりしてる」
「正月は?」
「たぶん帰らんのちゃうかなあ」


寂しいなと思った。電話をしてみてよかったと思った。夕日を見ながら、盆踊りの音楽を聴きながら、まるですぐそばにばあちゃんがいるかのような、そんな気がした。


「じゃあまあまた電話するわ」
「うん。ありがとう」


ばあちゃんはそう最後に言って、電話は切れた。ありがとう。それにどんな思いが込められていたのか自分にはよく分からない。でもなぜか、いつもとは違う『ありがとう』な気がした。ばあちゃんちに寄って、ばあちゃんが買ってきてくれたクロワッサンやドーナツを受け取りに行った時、いつも「ありがとう。またおいで」と送り出してくれていたはずなのに、その時とはなんだか違った。


なにが違ったのか、上手く言い表せないけど、確かに違ったのだ。


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