晴耕雨読

晴耕雨読

忘れてしまうから残す

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「わたし、楽器も込みで好きなんちゃうかな。エイジはドラムの増子さんが好きやし、テレンはベースの中原健人さんが好きやし、感エロは滝口さんやろ。……だから、うん、」 疲労感にまみれ、汗の染み込んだ黒いロングTシャツに身を包まれながら長く揺られる電車の中、自分がぺらぺらとそう話していたことを思い出す。朝7時12分。ぱちりと覚めた目。一人暮らしには十分な広さの友人の部屋。締め切られたカーテンの隙間から漏れる朝の光。気持ち悪いのに気持ちいい、少しだけ頭の中に残っている昨日の2杯のハイボール。11月4日が終わった。終わったんだな、とひとつ息を吐いた。ずっと、感覚ピエロと出会ったあの5月から不安を心の中に抱えながらもずっとずっと心待ちにしていた、そんな11月4日がやってきて、なにもかもの余韻と記憶という残り香をたくさんの場所に、たくさんの人のなかへ置き去りにし、もう一生やってこない過去となった。もうやってこない。再びやってくることは絶対にない。2019年11月4日、感覚ピエロの史上最高規模、幕張メッセワンマン公演『幕張ヴァージンはあなたのもの。』は、たしかに昨日終わった。でも、なにもなくなったわけじゃない。達成感なんて薄っぺらいものもあるわけがない。あるのは大きすぎる、溢れんばかりの感謝と、「感覚ピエロはぜったいにもっともっと大きくなる」という強い強い、願望。希望、予感、いや違う。これは確信だ。真実になりうる確信である。何度「ありがとう」と言われたんだろう。何度「こちらこそありがとう」と言い返せたんだろう。足らなかった。もっと伝えたい。どれだけ伝えたって足りるわけもない。彼らは、感覚ピエロは本当にもっともっと大きくなる。大きくなってほしいと心の底から思う。思った。思いたくなった。大きくなれ、大きくなってくれそして、もっと楽しませてくれ。わたしを、感覚ピエロを愛する人を、感覚ピエロにこれから出会おうとしている、未知数の人々を、もっともっと。



楽器が好き。ベースが好き。ドラムが好き。……好き。「まあだから忘れの柴田さんを好きになる事はないんちゃうかなあ……どうなんやろ。サポートベースの人とかは気になったりするんやけどな」めちゃくちゃしっくりいっているわけ、ではないし友人を感心させられるほど上手い説明ができたとも思っていないしその時も思わなかった。なんなんだろう。感覚ピエロ、Age Factory、LAMP IN TERREN。この3つのバンドに共通していることは一体なんなのか、と最近よく考える。よく考えるがそれはだいたい見当たらなくて、これだろうかなんて思ってもなかなかビビ!とはこない。ビビ!といえば、今日の夜、わたしがビビ!ときたご飯屋さんでとある友人と会う予定をようやっとつくることができた。とても嬉しい。奇跡だ。うれしい奇跡だ。大事にしたい。すごく。そんな、ずっといつか、美味しい飯をともに囲み、たわいもない話でもしてみたいと思っていたその友人との出会いはたしかほんとうに、偶然の産物だった。ああ、そういえばTwitterでフォローしていただけの方とライブ会場でたまたま出会えたりもしたんだった。あれも嬉しかった。嬉しすぎると人はテンパっていつもの自分ではない自分になってしまうらしいことを改めて知った。そうなると、そうなるのかもしれない。出会いは偶然?ただのなんでもない、何者でもないまぐれで、自分の意としていないところからふわっと浮いて生まれてくるような奇跡、なのだろうか。でもなんだかそれだけは、自分の中でいっこうに腑に落ちてくれない。しかも奇跡ってなんかちょっとクサいし。わたしが、わたしと出会うものには確かなものがたぶん、ほしいんだろう。でもまあ、「好きやしな」ということだけでもいいのかもしれないとも思う。なんだ、最近こんなことばかり考えてる気がする。幸せか?ああ、きっと幸せなんだろうな。こんな好きなものばかりに囲まれて、わたしは。