晴耕雨読

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忘れてしまうから残す

花とアリスを見ずに東中野までずっと歩いた。 (7/13 新文芸坐オールナイト「岩井俊二 蒼く気高い魂たちへ 2024」より雑記)

ずっと歩いていた。なんか悔しくて、なんかしたくて、なんか考えたくてなんかずっと歩けばなにかが晴れる気がして、なにかが上手くいく気とかなんとかなる気とか、人生がよりよく進んでいく気がして。わたしはそう信じたり信じなかったりしながら、ずっとずっと歩いていた。歩いて、たまに歌って、たまに腕をなんでもないけどブンブン振り回したりした。雨が強くなってきたらちょっと休憩したりしたし、友人に「おきてる?」なんて連絡してみてでも当然のように帰ってこなかったのですぐさま送信取り消しをしたりなんかもした。そうして東中野に着いたのは4時。乗った電車は始発の4時27分発。でも勿論、始発に乗ったってなにしたって今の自分の状況が1ミリでも変わる、そんなことは全くなくて。あー悔しい。なんかすごい、悔しくてむしゃくしゃ、ぐちゃぐちゃする、すべてが。腹が立つ。日々が上手くいかないことがなんかすんごい悔しくて、この世のすべてが憎くて、自分も嫌いで自分のこの人生ももう鬱陶しくてたまらない。これは誰のせい?は?お前か?わたしか?あんたか?誰だよ。そう叫びたくなる。お前のせいだろ、と誰でもいいから指を刺したい、そんなの自分でもいいしマジで誰でもいいから。でも、そんなことをしてもやっぱり上手くことが回るわけはないことをわたしはちゃんと知っているから、だからまた空虚をジッとなんともせず見つめたりする。悔しい。顔を上げたら空が青に黒を少し混ぜたような色になりかけている。朝だ。






オールということでお供にレッドブルを席でカシャッてしたんだけど隣の隣の人に普通に音にむちゃ反応されて「酒じゃないですレッドブルっすレッドブル」って言いたすぎる真顔になった。すみませんでしたレッドブルでした…





写真やタイトルの通り、7月12日の土曜日、22時30分。新文芸坐のオールナイト上映を初めて観に行った。いつか、絶対にいつか行きたい、と思っていたそれはただ、2800円をぽんと払うだけで叶ったのだから人生は金とタイミングだよなとつくづく思う。しかもその上映はあっという間にどんどこ席が埋まっていって最終的に当日には満席でソールドアウト。岩井俊二監督作品はやっぱり人気があるんだなーと他人事のようにぼんやり思う。でもたしかに、初めてのオールナイトで隣にも前にも後ろにもななめにも、そこらじゅうが人で溢れている、その状態はちょっと怖いなと単純に思ってしまっていたところは普通に、しかもめちゃくちゃにあった。隣が変な人だったらどうしよう、そもそも席の感じが想像しているより全然最悪だったらどうしよう、そうなったら終電でとりあえず帰ろうか、てかまず飲み物どうする?ドリンクバーってまだあんのか?あ、あるんだ…へえ……すごいね……とか様々な思考をとにかくグルグルと永遠に巡らせて。そうやっていろんなパターン、シチュエーションをイメトレして臨んだ、が、それらは全部消し飛ぶのがまた新文芸坐のすごいところなんだろうな、と馬鹿みたいに思う。隣の人ももはやその隣の人も(自分の場合は)別になんともなくて、むしろ上映中なんか誰1人声を発してなかったんじゃないかレベルのこれまた馬鹿みたいな静寂加減で。あと席もめっちゃふかふか。思ってたよりもふかふかしてた。ネットに書いてたドリンクバーは会場で400円払えば飲める感じだったしビールも600円で売ってて、休憩も20分くらいあって喫煙所もあって食べ物も食べてよくて。すごいなと、ただ、至極単純に、そう思うし振り返って今もそう思っている。新文芸坐、すごい。そういうマナーを守る参加者がすごいとかそういうのじゃなくて(そういうのでもあるけど!)、新文芸坐がすごい。すごいッス。や、行けば分かる。新文芸坐がマジですごい。ありがとう新文芸坐。なんとかやってこ新文芸坐。アナウンスもめちゃくちゃ好きでした。ありがて〜あとスタッフのみなさん親切でめちゃ手厚〜い(体感)。







結論から行くと「打ち上げ花火横から見るか下から見るか」と「リリイ・シュシュのすべて」だけを観てわたしは帰宅した。3個目の「花とアリス」も勿論観たい気持ちはあった。ちなみに3個の中でいちばん観た記憶が無いのが「花とアリス」だった。だから気にはなった、観たい気持ちはめちゃくちゃあった、……のだけれどどうも、どうにも、打ち上げからのリリイのなんかこう、こてんぱんに心をビンタされつづけていて「ちょっ、ちょっ、まっ……タンマタンマタンママジ待ってマジ待って一旦考えさせて」、みたいな感覚に耐えられなくなって一旦思考を停止するかインプットを辞めたすぎて、気付いたら会場をびゅん、と飛び出していた。そのとき、どこかから「これ深夜に見るやつじゃねえよ」とかいう声が聞こえてきた、そんな記憶があるがマジでそうだなとよくよく思う。いや、嫌とかじゃない、嫌とかじゃないんだよ。じゃあ観なきゃ良かったじゃんとかさあ、いやいや、そういう話じゃなくて。だってこれは自分たちの話じゃん。全部ぜんぶおれたちの物語で、ぜんぶわたしが通ってきた道だから。見返したくなかったなあ、とかでもないんだよなー。でも毎日を生きていく上で思い出すことの無い話で、思い出すとむず痒くて悔しくて悲しくて嬉しくて恥ずかしくて死にたくなる、そんな話。とりあえず1作ずつ殴り書きしていく、忘れないうちに。





まず『打ち上げ花火横から見るか下から見るか』。すごい良かった。キャストの全員が全員、(こんなことを言うのはかなりはばかられるし図々しくも小声で言ってると思ってもらいたいけど)特に超有名タレント、とかになっていないのもなんかアツいなと思った、その時だけの話、記憶、のような感じがして。あとは、わたしの場合、ずーっと自分の幼少期の記憶を目の前の映像を観ながらひたすらに思い出続けていた、それがかなり印象に残っている。こんなんだったなあ、と思いながらも、あー羨ましい、こんな、こんなが良かったわたしも…!と同時につよく、思いながら。無論、こんなん、と表しているが全然違う。わたしが小学生だった頃はもうちょっと男女で遊んだりしてたし普通に喋ったり下の名前で呼び合うくらい仲良かったし、でもとはいえ告白なんてされようもんなら学校の廊下でめちゃくちゃに言いふらされてだいぶ長い間からかわれたりしていたし。実際その時は両思いのようなものだったけど廊下ですれ違っても照れくさすぎてマジ付き合うとかもなんにもしなかったし結局自然消滅したし。なんかその、そういう “あの時代にしか起こりえなかった事物” をたくさん思い出して、なんか普通にちょっと寂しくなった。あともうひとつ言うとしたら、リリイもそうだがちょっとしたロジックめいたものが組み込まれているのも、相当面白い部分だなーと思う。もはやネタバレありますとかそういう注意書きゼロで当たり前みたいにネタバレするけど、タイムトラベルかあ、と、しかも、えっ、もしかしてそこもう戻ってる?とか頭を悩ませることができたり。脳死で「いいねえ、淡いねえ、かわいいねえ」でだけでも見れるしそういうロジックみも掘り下げていっても楽しいのは良いよなあ、と思った。自分はわりと脳死で見てました。なので割り切って言うとタイムトラベルしたことについてはあんまりなんにも思ってませんでした。





2作品目の『リリイ・シュシュのすべて』……。長いって言うのも相まって、でも「映画って……これくらいあるのがいいよな……」ってわたしはマジで普通にずっとそう思ってた。映画として見せられる全てを完璧に見せてくれた感じ。13歳14歳15歳の最高の瞬間と最悪の瞬間を普通に交互に見せられて「さあお前はどうする?てかなにしてる?今。今の現状のことどう思ってる?」とマイクグリグリ顔面に押し付けられた感じで、クソがつくくらい、一瞬で “わたしの大好きな映画” になった。今、1番オススメの映画は?って聞かれたら絶対にこれにする。はい、コレです。聞いたからにはお前ぜってー見ろよ?と凄んじゃうくらいにはコレ。


まずなにが良いって打ち上げとはガラッと変わってキャストが俳優好きドラマ好きなら大体分かるし普通の人も分かるんじゃね実際、とかってくらいとにかく勢揃いしまくり、っていうくらい勢揃い。(脳内再生を書き起こすので敬称略な人はそのままでいかせてもらうが)まず初っ端に「若すぎる市原隼人だ!」となり「忍成修吾さん来ちゃった不穏すぎ」「うわ蒼井優だ…」となり、そのうち「勝地涼だよな?」「笠原秀幸さんじゃん」となったり「田中要次さん来た〜」「おい杉本哲太の無駄遣いや」となったりする。いちばん衝撃的だったのはめちゃくちゃドカッコイイ高橋一生が出てきた時に思わず頬を緩ませて口元を手で覆ってしまった時だ。最高すぎる。あのスピードあの画角あの角度あの一瞬のモテモテ高橋一生学生バージョン、あれを見てほしいが為に高橋一生好きの友人に見てくれと押し付けたいくらいにマジでよかった。そのモテモテ高橋一生学生バージョン(しかも中学生)の周りにいてキャッキャしてるだけの女学生におれもなりたかったし実際映像で見ていたのでなったも同然のようなものです。凄かったなあ、あの高橋一生。結局最後の方とか結末というか物語の主軸部分に関わっていた訳ではあんまりなかったけど、高橋一生は売れるべくして売れたんだなあ、と振り返って思う1つの事象ではあった。




その後はもう、鬱展開とハッピーみんな幸せあっぱれ案件が交互に来て心臓が見事にやられた、くらいの感想しかない。そうじゃないでくれ、そうならないでくれ待ってくれ違う違うやめてくれ……!な展開を見事にそのまま映像として見せられるもんだから歯がイーッってなっていたし、でも「だから」というのも悲しい話、特に合唱シーンではいちばん涙がグッと誘われた。良かった、良かったなお前たち、幸せじゃん、いいじゃんもうそれで。としみじみするのもつかの間、いっつも不穏でダーティな役ばかりやられる忍成さんが前のめりになって下唇弾きながら画面にデーンって映し出されるもんだから思わず両手組んでこっそり願ったよね。もういいって……お願いだからもうやめてくれ、って。でもずっとその「もうやめてほしい」ことばかりが流れ続けて、で、またそれが結局元を辿れば『誰が悪い訳でも実際のところなくて、』っていうのが苦しくて仕方がなくて。そういうのを踏まえて、実際、この映画のいっちばんのテーマはそれ、『誰かだけが悪い訳でもない』だと思う。映像の中の中坊たちは万引きから始まりカツアゲ、いじめ(それもかなりド強烈)、暴力全般、挙句の果てには……、と、そう、めちゃくちゃに犯罪を犯しまくっている。でも、それを単純に罪として償わせる、みたいな展開がほとんど訪れない。まず警察役が出てこない。先生ですら「こういうの(万引き)、今の子供たち的に全然珍しいことじゃないんですよ」とか言っちゃうし。たぶんそれは、星野の行き過ぎた暴力行為も『星野だけが悪いわけじゃない』からで、星野に逆らえなくて久野さんを犠牲にしてしまった雄一も『雄一だけが悪いわけじゃない』からなんだろうな、と、そう思うとほんとうにやり切れない。誰かだけが悪いわけじゃないなら、じゃあ本当は誰が悪いの?本悪はだれなんだよ、とつい、決めつけたくなる。でもそうじゃない。全員悪くて、全員悪くなくて、でもやっぱりこいつは悪くて、でもこいつには悪くなった理由がこうこうこういうことがあるから、だから決定的な悪だとはどうしたって言えなくて。リリイ・シュシュのすべては、ずっとそのどうどうめぐりだった。だから雄一は最後、たぶん観客の誰もが「それだけはやめてくれ……!!!」と願ってやまなかった行動を起こしてしまったのだろうなと、思って、でもやっぱりなんとかしたかった、と無責任にもそう、思ってしまう。なんにもできやしないのに。理不尽の前に人間は途端に無力がすぎる。




あと、大人は弱いな、と思った。そうハッキリと一番に思ったのはやっぱり学校の先生たちの言動だ。田中要次さん演じる生活指導の先生が当たり前のように言った「このくらいの子供は何考えてるかわからないところがありますから」とか、雄一らクラスの先生の「なんか悩んでることある?」の馬鹿みたいなタイミングと馬鹿みたいな言葉選びとか馬鹿みたいな顔とか(顔は言い過ぎだが)。ハ?なんか悩んでることある?じゃねえよ馬鹿かよ。今までなんもしなかったのはお前らだろうが、とちょっと気を抜くと口が悪くなってしまうのだけれど、映画リリイ・シュシュのすべてにおいて『大人はなんにも使い道にならない』をこれでもか、と疑似体験させてくれた、それに等しかった。思い返さなくてもどのキャストからもそういうセリフは一切出てこなかったと胸を張って言えるが、言動や物事の進み方がそう思ってるんだろうなあと一種の諦めのようなものと共に感じさせてくれるし、実際そうなんだろうな、と確実にも思えてしまうがなんというか、やるせなかった、というか、でもそうなんだよなー大人ってなあ、というかなんというか。雄一のお母さんに関しては出演も少ないしセリフも少ないのに「雄一のこと見えてねえ〜〜〜〜なんにも分かってないじゃん」と思ったくらいだ。見てるだけで気分悪くなっちゃう感じの親の描写上手すぎだったなマジで。これは打ち上げのときのお母さんにも同じことが言えますが……(とここであの引きずっていくシーン思い出して気持ち悪すぎて身震い)。







この雑記を読んでいる人の中でリリイ・シュシュのすべてを見た事のある人はどのくらいいるのだろう。わたしは実際ほぼ観た記憶が無かったし、なんならリップヴァンウィンクルの花嫁とちょっと記憶を取り違えてたな、みたいなことすらあったくらいだ。黒木華ちゃん出てくるやつだよな……?とうっすら思っていたら初っ端から全然違って普通に気づいてカタカナ間違いしてたな(?)とアホの子みたいになっていたくらいだし。あとめちゃくちゃ長い。でも、一度観たらもう1回観たいなと、次は誰かと観てその誰かと「あそこさあ」「いやわかる」と言い合いたい。言い合って、「人生って……時に理不尽だけど何とか生きていかなきゃなんだよなあ」とかの結論にたどり着きたい。「たださあ、もうマジ考えうる最悪の結果にならないように、ただより最悪にならないように毎日毎月毎年ちょっとずつちょーっとずつさあ、なんとか自分の力で人生をねじ曲げてしていくしかないんだよなー」って言いたい。リリイ・シュシュのすべてもそうは言っても “いちばん最悪なこと” がなにかを分かっているのだろう、そういうシーンは後半に詰められていたのでそれだけは避けたい人生だよなって、話して「明日もなんとかやってこうな」って言って別れたい。あと全然触れてなかったことにここで気づいたけど音響、音楽もめちゃくちゃ良かったです。いやー音楽ってやっぱ人間を救ってくれるもんなんよね(いやゲキ浅〜…)(と他にも書きたいこと書くべきことありますがまたどこかで…)


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