晴耕雨読

晴耕雨読

忘れてしまうから残す

1122

夢を見た。将来の夢では無く、眠っている時に見る夢だ。夢の内容というのは時間が経てば経つほど消え失せていき他の物事を考えれば考えるほどどんどん忘れていく。記憶とは、夢とはなんと脆いものなのか、と少し笑う。最後に自分は唖然と、よく知っているような知らないような部屋の真ん中にすとんと立っていた。




玄関の鍵をよく開けっ放しにしてしまう。鍵を開けて入って、その中に入って後ろ手で閉めることをついつい忘れてしまうのだ。その日もどうやらうっかり忘れていたらしく、締めに行こうと思ったそのまさかのタイミングで誰かの手によって開けられていくのをわたしはこの目で見ていた。開けたのは、隣の部屋に住む女の子。実際に見たことがあるような外見をしていたようにも思うし、あんな明るくてよく喋るような友人は居ないことはいないけど明確に実際の友人だったわけではなかった。



その彼女に何を言われてか部屋に連れられてわたしは隣の彼女に部屋に入り、ぐるりと見回す。角部屋なのか自分の部屋よりもかなり広々としていて、何故か和室だった。キッチンは手前の部屋、奥の部屋には押し入れと真ん中におばあちゃんちにあるような古びた濃い茶色の机、そしてベランダ。彼女は純烈というアイドル?が好きらしく少しだけ話を聞いた。わたしにはなにも分からなかった。聞いても彼女は教えてくれない。



君の部屋はどんなの?という話になって2人でベランダに出ていく。どうやら彼女はベランダ伝いにわたしの部屋を見に行くらしく、その日は実際に三日月(半月っぽくもあった)が綺麗な夜だったからかその光に照らされながらベランダを歩いていく彼女の姿はかなり綺麗だった。月の光でもない、街灯の光のようなものもバッと刺していたように思うが、そこはあまり覚えていない。ただ、ひたすらに綺麗だったことだけがぼんやり記憶に残っている。「小さいね」とでも、言われたんだっけ。たしかにわたしの部屋は、彼女のその部屋よりも確実にせまい。



しばらく談笑していたのかなんなのか、急に彼女の部屋にズカズカと1人の女が入ってくるシーンが出てくる。その女はカウンセラーだとさらりと名乗り、そして今から自分が担当を受け持っているその彼女を部屋から連れ出すらしい。カウンセラー……?となると彼女はどこか悪いのか。何も知らないわたしはもちろん疑問を感じて、するとそのまま表情にも出ていたんだろう。

「あらゆるお金を使い切ってしまうんです。だからベランダに隠したりしているんですが」

そのわたしに、カウンセラーは確かにそう言った。女もどこかで見た事のあるような、会って話したことのあるような嫌に懐かしい風貌をしていたが特定の人物ではなかった。その言葉を聞いて、そしてさっきのおしゃべり具合とは裏腹にゆらゆらと視線を宙にさまよわせながらその女に連れられていく彼女を見つめ、そして冒頭に描いた通りのシーンで夢は終わっていく。




知らない部屋で、愕然と、呆然としていた自分。その部屋を出ていく前の彼女のあのジッと素直に連られて行く姿がしばらく脳裏から離れなくて、起きてもすこしだけ恐怖のようなものがジワリと残っていてさすがに気持ち悪かった。でもゆっくり考えてみても、いや、どう考えてみてもその彼女と実際の自分の状況とを重ね合わせていたとしか思えなくて、ああ、これだから夢は、とも思ってため息を吐く、なんてこともしてみたり。


「生きてるだけで金かかるよねえ」

ふとそんな会話を休憩中にしたことを思い出して、そのせいなのかな、なんてことも思った。生きてるだけでお金がかかる、そんなめんどうな世界で生きてさらに働いている自分はどれだけ偉くて、でも、どれだけどこかの誰かより、うんと恵まれていたりするんだろうか。